執筆・監修:宮本 彩香先生(英語指導/指導歴10年・中高英語/定期テスト・入試対策)
文法の丸暗記より「なぜそうなるか」で、英語を得点源に変える指導が得意。
模試が返ってきて、英語だけが偏差値の表の左端にある。答案を開いても、赤ペンの×が並んでいるだけで、どこが分かっていないのかまでは読み取れない——中3のお子さんの答案を前にした、お母さん・お父さんに向けて書いています。
先に結論をお伝えします。お子さんの英文法の抜けは、単元名の一覧を眺めても見つかりません。見つかるのは、たった一文です。「この一文を日本語にできるか」「この一文をこう書き換えられるか」。それだけで、抜けている単元と、戻るべき学年まで特定できます。英語を教えられなくても、“聞くこと”は親にもできます。
この記事では、①「覚えておくべき文法」が全国共通ではない理由、②8つの判定チェック(この一文が訳せない → 抜けている単元 → どこまで戻るか)、③長文と英作文の中で文法がどう問われるか、④×がついたときの戻り方、⑤保護者の関わり方を、順にお伝えします。
ひとつだけ先に。8つのうち1つだけ、ここが崩れていると残りの7つを直しても点が戻らないというチェックがあります。それがどれかは、最初のチェックでお伝えします。そしてもうひとつ。「文法問題集を1冊やり直したのに、模試の英語だけが戻らない」というご相談を毎年いただきます。その原因は、文法の外側にあります。こちらは記事の後半で。
まず結論(一問一答)
Q. 高校入試の英語で、覚えておくべき文法はどれですか?
A. 塾・家庭教師各社の記事で共通して挙がるのは、時制/助動詞/受動態/比較級・最上級/現在完了/不定詞・動名詞・分詞/関係代名詞/重要構文(It is 〜 to do・間接疑問文)のおおむね8つです。ただし、この一覧を上から順にやり直すのは中3の秋には現実的ではありません。先に「お子さんがどこで崩れているか」を判定するほうが早く、確実です。
Q. どこから戻ればいいですか?
A. 中1の動詞です。be動詞と一般動詞の使い分け、そして三人称単数現在(三単現)。ここが曖昧なまま現在完了や関係代名詞に手を出しても積み上がりません。英語が苦手なお子さんのつまずきは、学年に関係なくここに集まります。
Q. 親は英語を教えられませんが、それでも確認できますか?
A. できます。使うのは「日本語で説明させる」という方法だけです。正解かどうかを親が判定する必要はありません。お子さんの説明が止まった場所が、そのまま抜けの位置になります。
Q. 文法問題集を1冊やり直せば足りますか?
A. 多くの場合、足りません。入試の英語では、文法は単独の問題としてだけでなく、長文・対話文・英作文の中で問われるからです。「知っているか」ではなく「使えるか」を聞かれている、という言い方が近いです。
Q. 中3の今からでも間に合いますか?
A. 範囲を絞れば間に合います。前提は全部やり直さないこと。8つのうち、上流にある1つを選んで戻るのが最短です。9月以降の月ごとの進め方は、記事の後半でお伝えします。
——ただ、この5つの答えには前提があります。そもそも「覚えておくべき文法」は、全国共通ではありません。
「覚えておくべき文法」は、都道府県と学校で違う——過去問3年分を自分で数える
「高校入試 英語 覚えておくべき文法」と検索すると、頻出単元を8つ前後に絞ったリストがいくつも出てきます。中身はどれも似ています。中学校で学ぶ英文法の範囲そのものが学習指導要領で決まっているため、そこから重要なものを選べば自然と同じ顔ぶれになるからです。
問題は、そのリストが「どの都道府県の、どの年度の入試を数えた結果なのか」が書かれていないことです。公立高校の入試問題は都道府県ごとに、私立は学校ごとに作られます。同じ「文法」でも、問われ方はこれだけ変わります。
- 並べ替え(語句を正しい順に並べる)が中心の入試
- 空所補充(かっこに入る語を選ぶ・書く)が中心の入試
- 文法単独の大問がなく、長文と対話文の中だけで問われる入試
- 条件英作文(決められた語数・語句を使って書く)に比重が置かれた入試
どの形式が中心かで、家庭でやるべき練習はまるで変わります。並べ替えが多いなら語順の練習が効きますし、条件英作文があるなら「短く正確に書く」練習が要ります。この違いは、リストを見比べても分かりません。
いちばん確実なのは、志望校の過去問を3年分そろえて、自分で数えることです。手順は3つだけです。
- 過去問3年分を、大問ごとに分ける。 リスニング/文法・語彙/対話文/長文読解/英作文、という大まかな分け方で構いません
- 文法が「単独の問題」で出ているか、「長文・対話文・英作文の中」で出ているかを分ける。 前者が少ない都道府県もあります
- 形式を正の字で数える。 並べ替え・空所補充・語形変化・条件英作文が、それぞれ何問あったか
3年分で傾向はおおむね見えます。ここで大事なのは、誰かが出した「出題率」の数字を鵜呑みにしないことです。出題の割合を公式に集計して公表した資料は存在せず、世に出ている数字は各社の独自集計です。志望校の過去問という一次情報が手元にあるのに、他人の集計を信じる理由はありません。過去問をいつから、何年分やるかは高校受験の過去問はいつから使い始めるかで整理しています。
では、その「数える」作業の前に、先に済ませておくべきことが1つあります。過去問を数えても、お子さんの抜けは出てこないからです。
文の骨組みが崩れているサイン【チェック①〜③】
過去問で数えられるのは、出題する側の傾向です。お子さんの中で何が抜けているかは、そこには書かれていません。ここからは内側を見ます。使うのは問題集ではなく、一文です。
やり方は簡単で、紙に英文を1つ書いて見せ、「これ、日本語にするとどうなる?」または「これ、こう書き換えられる?」と聞くだけ。8つ全部でも10分ほどです。正解・不正解の○×を親がつける必要はありません(判定するのは「説明できたか」です。その理由は記事の最後でお伝えします)。

| # | この一文が…(判定) | 抜けている単元 | 戻り先(一般的な進度) |
|---|---|---|---|
| ① | ✕ He play tennis. のどこが変か説明できない |
三単現/be動詞と一般動詞 | 中1・一般動詞の現在形 |
| ② | ✕ He can plays the piano. をどう直すか言えない |
助動詞+動詞の原形 | 中1後半〜中2・can/will/must |
| ③ | The letter was written by my sister. の主語を取り違える |
受動態・過去分詞 | 中2の過去分詞 → 中2末〜中3の受け身 |
| ④ | I watch TV. を昨日・今・明日の3通りに書けない |
時制(過去形・進行形・未来表現) | 中1の過去形/進行形 → 中2の未来表現 |
| ⑤ | I have been to Osaka. と I went to Osaka. を訳し分けられない |
現在完了(完了・経験・継続) | 中1〜中2の過去形 → 中3前半の現在完了 |
| ⑥ | interesting の比較級で手が止まる |
比較級・最上級 | 中2・比較 |
| ⑦ | To read books is fun. を It is fun to 〜 にできない |
不定詞・動名詞・形式主語の It | 中2の不定詞/動名詞 → 中3の分詞 |
| ⑧ | The boy who is running over there is my brother. の主語を区切れない |
関係代名詞・間接疑問文の語順 | 中2の間接疑問文 → 中3の関係代名詞 |
※学年は一般的な進度です。教科書と学校の進度によって前後します。
まずは英文の骨組みからです。主語・動詞・語の形。ここが緩んでいると、その上に何を積んでも立ちません。
「”He play tennis.” のどこが変か、お子さんが説明できないとき」
判定のしかた。紙にこう書いて見せてください。
- ✕
He play tennis.
そして「これ、どこか変じゃない?」と聞きます。plays に直せただけでは○になりません。「主語が he だから、動詞に s が付く」と説明できて○です。直せるのに理由が言えない場合は、パターンで覚えているだけなので、文が長くなると同じ間違いが戻ってきます。
- ○
He plays tennis.
抜けているのは、一般動詞の三人称単数現在(三単現)と、be動詞と一般動詞の使い分けです。この2つはセットで扱ってください。次の文に違和感がないお子さんも、原因は同じ場所です。
- ✕
I am play soccer.(be動詞と一般動詞が1つの文に同居している) - ✕
Does he plays baseball?(does があるのに動詞に s が残っている)
戻り先は、中1の一般動詞の現在形とbe動詞です。一般的な進度では中1の1学期から2学期にかけて学ぶところで、中3の秋から見れば2年半前になります。「いまさらそこ?」と思われるかもしれません。ですが、8つのうちここだけは順番を飛ばせません。 動詞は英文の骨格で、どの文にも必ず入っています。ここが緩んだまま関係代名詞を直しても、文そのものが立たないからです。冒頭でお伝えした「1つだけ、ここが崩れていると残り7つを直しても点が戻らないチェック」は、これです。
戻ると言っても、中1のワークを最初から解き直す必要はありません。手持ちのワークの、その単元の基本問題だけで足ります。
「”He can plays the piano.” のどこを直せばいいか、すぐ言えないとき」
判定のしかた。
- ✕
He can plays the piano.
「これ、どこを直す?」と聞きます。play に直したうえで、「can の後ろは原形だから」と言えて○です。①が○だったお子さんが、ここで初めて止まることがあります。①で「he なら s を付ける」と覚えた直後だと、その知識がかえって邪魔をするためです。
- ○
He can play the piano.
抜けているのは、助動詞のあとは動詞の原形になるというルールです。can/will/must/should/may はどれも同じ扱いになります。次の文で止まるようなら、同じ場所です。
- ✕
He will is a doctor.→ ○He will be a doctor.
戻り先は、中1後半のcanと、中2のwill・must・shouldです(進度で前後します)。助動詞は、動詞の形を強制的に原形に戻すスイッチだと説明すると、多くのお子さんがその場で腑に落ちます。あわせて must not(〜してはいけない)と don't have to(〜しなくてよい)の違いも聞いてみてください。空所補充で狙われやすいところです。
「”The letter was written by my sister.” の主語を『私の姉』と答えるとき」
判定のしかた。この文を見せて、日本語にしてもらいます。
- ○
The letter was written by my sister.
「その手紙は私の姉によって書かれた」と、”誰が誰にした”の向きまで言えて○です。「姉が手紙を書いた」と訳した場合、意味は近いのですが主語が入れ替わっています。ここは×として扱ってください。下線部の主語を答えさせる設問や能動態への書き換えが出ると、向きが逆のままでは点になりません。
抜けているのは、受動態(be動詞+過去分詞)と、その材料になる過去分詞の形です。多くの場合、原因は受動態そのものではなく、不規則動詞の変化を覚えきっていないことにあります。次のような書き間違いが出ていれば、そちらが本体です。
- ✕
The window was broke by Ken.→ ○The window was broken by Ken.
戻り先は、中2で学ぶ過去分詞(不規則動詞の変化表)、そのうえで中2の終わりから中3のはじめに学ぶ受け身です(教科書によって前後します)。日本語は主語を省いても文が成り立つため、主語が入れ替わることの重さに気づきにくい言語です。ここは「日本語と英語の作りが違う」と説明したほうが早く入ります。
①〜③が全部○だったご家庭も、安心するのはまだ早いところがあります。次は、日本語には無い「時間の見せ方」です。
時間の表し方でつまずいているサイン【チェック④〜⑤】
日本語は「きのう」「もう」「ずっと」といった言葉で時間を示します。英語は違います。動詞の形そのものを変えて時間を示します。ここが、日本語を母語とするお子さんが必ず一度はつまずく段差です。そしてこの章の2つのチェックのあとには、親世代の中学英語には存在しなかった単元の話が控えています。
「”I watch TV.” を『昨日の話』と『明日の話』に書き換えられないとき」
判定のしかた。この文を見せて、3通りに書き換えてもらいます。
- ○
I watch TV.(ふだんの習慣として) - ①昨日のこと →
I watched TV. - ②今まさにしていること →
I am watching TV. - ③明日のこと →
I will watch TV./I am going to watch TV.
3つとも書けて○です。1つでも手が止まれば×として扱ってください。
抜けているのは、時制(過去形・進行形・未来表現)と、不規則動詞の過去形です。次のような症状が併発します。
- 過去の話をしている途中で、動詞だけ現在形に戻る
- ✕
I goed to the park.→ ○I went to the park. willとbe going toを、まったく同じものだと思っている
戻り先は、中1で学ぶ過去形・進行形、そのうえで中2の未来表現です(進度で前後します)。覚える量そのものは多くありません。不規則動詞の変化表を1枚、手元に置いておくだけでかなり変わります。表を新しく買う必要はなく、ワークの巻末にたいてい載っています。
「”I have been to Osaka.” と “I went to Osaka.” を訳し分けられないとき」
判定のしかた。2つの文を並べて見せ、「この2つ、どう違う?」と聞きます。
- ○
I have been to Osaka. - ○
I went to Osaka.
「行ったことがある(いまにつながる経験)」と「行った(過去の出来事)」の違いを日本語で言えて○です。「どっちも行ったってことでしょ」と返ってきたら×になります。
抜けているのは、現在完了(have+過去分詞)です。完了・経験・継続の3つの使い方に加えて、have been to(行ったことがある)と have gone to(行ってしまって今ここにいない)の違いもよく問われます。次の文を「正しい」と判断した場合も、同じ場所が原因です。
- ✕
I have visited Osaka yesterday.(yesterdayと現在完了は同居しない) - ○
I visited Osaka yesterday.
戻り先は、④で確かめた過去形——そのうえで、中3前半の現在完了です。ここは順番が大切で、現在完了でつまずいているお子さんの多くは、現在完了ではなく過去形の理解が浅いまま先に進んでいます。「いまと切れている過去」が分かっていないと、「いまとつながっている過去」は理解できません。つまり、⑤で×がついたときの実際の戻り先は、④になることが少なくありません。
【コラム】親世代の中学英語には無かった単元があります
If I were a bird, I could fly to you.(もし私が鳥なら、あなたのところへ飛んでいけるのに)この形が中学校の教科書に載っているのは、中学校学習指導要領(平成29年〈2017年〉告示)が2021年度(令和3年度)から全面実施され、仮定法が中学校の学習内容に加わったためです。保護者の方が中学生だった頃は、高校で扱う内容でした。「こんなの中学でやった記憶がないけれど」という違和感は、正しいのです。ご家庭でフォローできなかったのは当然のことで、気にされる必要はありません。
判定するなら「主語が I なのに、なぜ were なのか説明できるか」です。「本当のことではない、と分かるようにわざと形をずらしている」と言えれば十分です。ただし、戻り先は中3後半の仮定法ですが、④の時制が安定してからにしてください。 時制のずらし方で意味を作る仕組みなので、土台が揺れているうちに手を出すと、ほぼ確実に混乱します。
ここまでは、短い一文の話でした。英語が崩れる本番は、文が長くなってからです。
文が長くなると崩れるサイン【チェック⑥〜⑧】
ここからは、答案の長文の設問にだけ×が並んでいるご家庭に、特に読んでいただきたい3つです。「短い文なら訳せるのに、長文になると読めない」という状態には共通する構造があります。1つの文に情報が2つ以上入ると崩れる、という構造です。
「”big → bigger” は書けるのに、”interesting” を同じように変えられないとき」
判定のしかた。4つの語を並べて、比較級にしてもらいます。
big→bigger/easy→easier/interesting→more interesting/good→better
4つ揃って○です。1つでも詰まれば×にしてください。とくに3つめと4つめで止まる子が多いところです。
抜けているのは、比較級・最上級です。-er/-est を付けるものと more/most を前に置くものの区別、good — better — best のような不規則変化、そして as 〜 as の形。次のような症状が併発します。
- ✕
He is more taller than I.(moreと-erを重ねている) thanの後ろが抜け落ちるthe tallest in his classとthe tallest of the threeのinとofを使い分けられない
戻り先は、中2の比較です(進度で前後します)。比較は、1つの文に「もう1つの対象」を足す単元です。ここから英文は長くなり始めます。長文で止まっているご家庭は、多くの場合⑥から後ろに×が並びます。
「”To read books is fun.” を “It is fun to 〜” の形に書き換えられないとき」
判定のしかた。この文を見せて、It から始まる形に書き換えてもらいます。
- ○
To read books is fun.→ ○It is fun to read books.
書き換えができたうえで、「この It は何を指しているのか」を説明できて○です。「特に意味はなくて、後ろの to read books の代わりに置いてある」と言えれば十分です。
抜けているのは、不定詞・動名詞と、形式主語の It(It is 〜 (for 人) to do)です。次の症状が併発します。
- ✕
I enjoyed to play tennis.→ ○I enjoyed playing tennis.(enjoy は動名詞をとる) the boy running over there(あそこで走っている男の子)のrunningを文全体の動詞だと思い、主語を探しに行ってしまうwant to以外の不定詞になると訳が止まる
戻り先は、中2の不定詞・動名詞、そのうえで中3の分詞です(進度で前後します)。ここは「不定詞とは何か」を暗記させるより、動詞を”名詞のかたまり”に変える道具だと説明したほうが早いです。このかたまりの感覚がないと、長文で主語がどこまで続いているのかを見失います。
「”The boy who is running over there is my brother.” が誰の話か、すぐ答えられないとき」
判定のしかた。この一文を見せて、日本語にしてもらいます。
- ○
The boy who is running over there is my brother.
「あそこで走っている男の子は、私の弟です」と、どこまでが主語かを区切って言えて○です。文の後半の is my brother にたどり着けず、途中で止まってしまったら×になります。
抜けているのは、関係代名詞(who/which/that)と、間接疑問文の語順です。この2つは別の単元として習いますが、「文の中に文が入る」という点でまったく同じ構造なので、片方が崩れているときはもう片方も崩れています。次の文で確かめられます。
- ✕
Do you know where does he live?→ ○Do you know where he lives?
戻り先は、中2の間接疑問文、そのうえで一般的な進度では中3の2学期に扱う関係代名詞です。ただし、⑧で止まるお子さんの多くは、関係代名詞そのものではなく、①で見た「動詞がどれか」が見えていないために主語の切れ目を見失っています。入試の長文で最も差がつくところでありながら、実際の戻り先は①になる——これが、8つの判定でいちばん多いパターンです。

上の図解②は、そのまま印刷して使えるチェックシートです。左に英文だけを並べ、単元名はあえて載せていません。単元名が見えていると、お子さんが「あ、これ関係代名詞だ」と身構えてしまい、素の状態が測れなくなるためです。右側は、正誤ではなく説明が止まった場所を書き込む欄にしてあります。
ここまでで8つの判定が終わりました。ところが、×が3つ以上ついたご家庭のほとんどが、次にやることを間違えます。
文法は単独では出ないことが多い——長文と英作文の中でどう問われるか
その話に進む前に、冒頭でお伝えした宿題を回収します。「文法問題集を1冊やり直したのに、模試の英語だけが戻らない」。この原因は、入試の英語が「文法を知っているか」ではなく「使えるか」を聞いているからです。
文法が単独の設問として出る都道府県もあれば、大問としてはほとんど置かず、長文・対話文・英作文の中だけで問う都道府県もあります。文法問題のページで満点が取れても、それがそのまま得点になるとは限りません。どちらの形かは、先ほどの過去問3年分で確かめられます。
参考になる公的な資料があります。東京都教育委員会が2026年6月に公表した「令和8年東京都立高等学校入学者選抜学力検査結果に関する調査」では、英語の平均点が前年の63.7点から61.2点となり、5教科の中で最も下げ幅が大きくなりました(-2.5点)。同じ資料で示された指導改善の視点には、「既習の語彙や表現などを実際に活用して、その定着を図る学習の充実」「物語の概要や要点を正確に把握する力を身に付ける学習の充実」が並びます(※原文に示された3項目のうち2項目です)。覚えたかどうかではなく、覚えたものを”使う”段階が課題になっている、という読み方ができます。なお、これは東京都のデータです。お住まいの都道府県の傾向とは限りませんので、そのまま当てはめないでください。
英作文で減点される4つの型
「使う段階」でいちばん分かりやすく点が引かれるのが、条件英作文です。ここは弱めずにお伝えします。難しい英文が書けないことによる失点ではありません。 8つの判定で見つかる抜けが、そのまま採点欄で引かれています。
- 三単現の s の脱落(✕
He like music.→ ○He likes music.)=チェック①の抜け。1文ごとに引かれるため、3文書けば3回引かれます - 時制の不一致(過去の出来事を書いている途中で現在形に戻る)=チェック④の抜け。話の筋が通っていても減点対象です
- 語順の崩れ(✕
I know what is this.→ ○I know what this is.)=チェック⑧の抜け - 条件を満たしていない(指定された語数に届かない・使うよう指示された語句を使っていない)=内容以前の問題として引かれます
裏を返せば、8つのチェックで見つかる抜けは、そのまま点に直結するということです。長文でも同じで、①が抜けていれば主語と動詞の切れ目が見えず、⑧が抜けていれば長い一文がどこで終わるのか分からない。読解のスピードそのものが落ちます。文法をやり直す価値は、文法問題の点だけにあるのではありません。
長文で点が取れない原因は、文法だけとは限りません。文法以外の原因も含めた、英語長文で点が取れない原因の見分け方もあわせて確かめてください。
ここまで読んで「うちは×が多い」と感じられたかもしれません。それでも、やることは増えません。むしろ、減ります。
×がついたとき、どこから戻るか
×が複数ついても、同時に戻らないでください。優先順位は決まっています。①→④→⑤の順(動詞の形 → 時制 → 現在完了)で、上流にあるものを1つだけ選びます。②③⑥⑦⑧は、①④⑤が安定すると理解の速度そのものが変わるため、先に手を出すと二度手間になります。
選んだ1つは、手持ちのワークの基本問題だけを解き、間違えたものに印を付けて翌日もう一度解く。2回続けて正解したら次に進む。これだけです。新しい問題集は買わないでください。 中3の秋以降にやり直しの教材を増やすと、どれも半分で終わります。
9月以降の5か月を、文法・長文・リスニング・単語のどれを主役にして使うかは、中3の9月から始める高校受験英語の総復習計画にまとめています。この記事で見つけた「戻る1単元」を、そちらの時間割に乗せてください。
最後に、保護者の方がよかれと思ってやると、かえって抜けが見えなくなる確認方法を1つだけお伝えします。
保護者ができること——丸つけをしないで「日本語で説明できるか」を聞く
ここまでの8つを、明日お子さんに聞いてみようと思われた方へ。聞き方だけ、先に決めておいてください。
やらないこと:丸つけ
答えが合っているかどうかを親が採点すると、お子さんの意識は「当たったかどうか」に向かいます。ところが、この8つで判定したいのは正解率ではありません。説明できるかどうかです。同じ○でも、勘で当てた○と、理由を言える○では、入試での再現性がまったく違います。まぐれで当たった三単現は、英作文の3文目で落ちやすくなります。
やること:3つだけ
- 「日本語で説明して」と聞く。 訳を言わせるだけでなく、「なぜその形になるのか」を聞きます。「can の後ろだから原形」と言えれば、それで判定は終わりです
- 説明が止まった場所をメモする。 正解・不正解ではなく、止まった場所が抜けの位置です。図解②のシートの右欄が、そのためのスペースです
- その場で教えない。 ここがいちばん難しいところです。教えてしまうと、お子さんは次から説明しようとしなくなります。「そこ、あとで一緒に調べよう」で止めてください
この3つなら、英語を教えられなくてもできます。というより、教えられないからこそできる確認方法です。分かる人ほど、つい先回りして説明してしまうからです。
親の関わり方をもう少し広く整理したものは高校受験で親ができることに、英語の日々の進め方(単語・文法・音読の順番)は中学英語の単語・文法・音読の進め方にまとめています。入試の文法は、ある日突然に入試のものになるわけではなく、毎回の定期テストの範囲が積み上がったものです。ふだんのテスト前の1か月をどう組むかは、定期テスト1ヶ月前からの勉強計画で扱っています。
あるご家庭の話
中3の10月。模試で英語だけが他教科より偏差値で10近く低く、答案は長文の設問がほとんど×という状態でした。ご家庭では「関係代名詞が分かっていないのでは」と考えて、その単元のワークをやり直していたそうです。
答案を見せていただくと、英作文に
He like soccer.と書かれていました。長文でも、主語がどこで終わるのかを取り違えた誤答が並んでいました。関係代名詞ではなく、動詞の形(チェック①)で止まっていたわけです。戻り先を①に切り替え、次に④まで進めたところで、長文の設問の×が減り始めました。本人は「文が切れるところが見えるようになった」と話していました。※個人の事例であり、結果を保証するものではありません。
「関係代名詞が分からない」という同じ一言でも、原因が動詞の形にある子と、語順にある子では、戻り先がまったく違います。判定までは、ご家庭でできます。 難しいのはその先——止まった場所から「どの学年のどこまで戻るか」を決めるところです。
よくある質問(FAQ)
文法の問題集は何冊やればいいですか?
1冊を2周で十分です。 中3の秋以降に冊数を増やすと、どれも途中で終わります。1周目は間違えた問題に印を付けるため、2周目は印のついた問題だけを解くため、と役割を分けてください。手持ちの学校のワークがあれば、それで足ります。
中1・中2の教科書を処分してしまいました。買い直すべきですか?
買い直さなくて大丈夫です。 戻り先として挙げた単元は、いま使っているワークの該当ページ、学校で配られたプリント、巻末の不規則動詞の変化表などで確認できます。必要なのは教材ではなく、戻る場所が分かっていることです。
単語と文法は、どちらを先にやるべきですか?
単語は毎日続けたまま、文法は判定で見つかった1単元だけを並行させます。単語は英語の土台で、止めると長文もリスニングも伸び方が頭打ちになります。一方、文法は範囲を絞らないと終わりません。「単語=毎日・少量・継続」「文法=1単元だけ集中」と役割を分けるのが現実的です。熟語は、長文で出会ったものをその都度書き留める形で十分です。
英検を持っていると、入試の英語で有利になりますか?
扱いは学校・都道府県によって違います。 加点の対象になる場合、出願の条件になる場合、まったく関係しない場合があります。一般論で判断せず、志望校の募集要項と、お住まいの都道府県の入学者選抜の実施要綱で確認してください。なお、英検の対策と入試の文法対策は重なる部分が多いので、どちらかを捨てる必要はありません。
親が一緒に勉強してもいいですか?
「一緒に解く」ではなく「説明を聞く役」に回るのがおすすめです。 一緒に解くと、答えを出す速さで大人が勝ってしまい、お子さんが考える時間が消えます。説明を聞く役なら、英語が分からなくても務まりますし、「人に説明する」こと自体が定着に効きます。1回10分、週に2〜3回で十分です。
そのほかの疑問は、よくある質問もあわせてご覧ください。
まとめ|英語の抜けは、単元名ではなく「一文」で見つかる
- 抜けは一文で判定できる。 単元名の一覧を眺めても、お子さんがどこで止まっているかは分かりません。訳せるか・書き換えられるか・説明できるか、で決まります
- 戻るのは1つだけ。 ×が複数ついても、①→④→⑤の順で上流にあるものを1つ選びます。②③⑥⑦⑧は、それが安定してからのほうが速く進みます
- 親の役割は丸つけではなく「説明を聞く」こと。 止まった場所が、そのまま抜けの位置です
「覚えておくべき文法」は、リストとしてはどこも同じ顔ぶれになります。差が出るのは、その中のどれが自分の子に足りていないかを知っているかどうかです。残り時間が短いご家庭ほど、この差がそのまま点差になります。
今日できることは1つだけです。紙に He play tennis. と書いて、「これ、どこか変じゃない?」と聞いてみてください。 そこから先は、この記事の表のとおりに進みます。
お子さんの英語が「どこで止まっているか」を、一緒に確かめませんか
8つの判定は、ご家庭でも今日できます。難しいのはその先です。止まった場所から、どの学年のどこまで戻るかを決めるところ。同じ「関係代名詞が分からない」でも、動詞の形が原因の子と、語順が原因の子では、戻り先がまったく違います。これは、答案を見ないと分かりません。
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