執筆・監修:小川 真理子先生(受験アドバイザー/指導歴15年・志望校選び/学習計画/進路相談)
「何から手をつければいいか」を、現実的な学習計画に翻訳するのが役目。
9月の書店。学参コーナーで志望校の赤本(過去問集)を手に取ったものの、「まだ全範囲習っていないのに、解かせて大丈夫?」と迷って、そっと棚に戻した——中3のお子さんを持つお母さん・お父さんへ。この記事は、その迷いに正面から答えるために書きました。
先に結論をお伝えします。高校受験の過去問は、中3の9月に「1年分だけ」解くのが最初の正解です。そして何年分やるかは、第一志望が3〜5年分、併願校は3年分が目安。ここまでは、ほとんどのお子さんに共通します。
ただし、その先が問題です。本格的な過去問演習をいつ始めるかは、お子さんの学力帯と志望校によって最大3ヶ月ずれます。実際、受験情報サイトを見比べると、「9月から始めよう」という解説と「12月からで十分」という解説が同居しています。どちらもウソではありません。前提にしている子ども像が違うだけです。では、あなたのお子さんはどちらに当てはまるのか——その見分け方を、この記事でお伝えします。
結論:過去問は「9月に1年分」が最初の一歩。ただし本格演習の開始月は子どもによって3ヶ月ずれる
まず、なぜ「9月に1年分」なのか。この時点の過去問は、点を取るためではなく、敵を知るために解きます。
志望校の入試問題を1年分解くと、「どんな形式で」「どのくらいの量が」「どのレベルで」出るのかが、体感として分かります。大問構成、記述の多さ、時間の厳しさ——これを知っているかどうかで、残り半年の勉強の照準がまったく変わります。だから、全範囲を習い終えていなくて構いません。習っていない単元は飛ばしてよく、点数が低くても問題ありません。9月の1年分は「診断」であって「勝負」ではないからです。
では、なぜプロの間でも「いつから」の答えが割れるのか。ここが本題です。
「9月から」派の主張は、早く敵を知って逆算するほど、勉強の無駄が減るというもの。一方「11〜12月から」派の主張は、基礎が固まっていない段階で過去問を解いても、歯が立たずに消耗するだけというもの。お気づきでしょうか。両者は違うことを言っているのではなく、違う子どもを想定しているのです。基礎がすでに固まっている子には9月からの演習が機能し、基礎に穴がある子には12月まで基礎固めを優先するほうが合格に近い。受験勉強全体をいつ始めるかという話(参考:高校受験の勉強はいつから始める)や、夏の基礎固めの質(参考:中3受験生の夏休みの過ごし方)と地続きの話です。
協会の20年以上の指導経験でも、この判断を誤って「早すぎる演習で自信を失う」「遅すぎる演習で形式に慣れないまま本番」というケースを繰り返し見てきました。では、その”前提の違い”とは何か。判断基準はたった2つ——直近の模試偏差値と、志望校のレベルです。次の章で、お子さんに当てはめてみましょう。
なぜ「9月開始」がいちばん多いのか——3つの理由
過去問の開始時期を「9月」とお伝えしているのには、理由があります。9月は、過去問が“意味を持ちはじめる”最初の月だからです。
理由1:出題範囲が、ようやく過去問と噛み合う。 高校入試は3年間の全範囲から出ます。1学期の時点では未習の単元が多く、解けない問題が「実力不足」なのか「まだ習っていないだけ」なのか区別がつきません。2学期に入ると主要単元が出そろい、間違いの原因を「弱点」として読めるようになります。
理由2:夏休みの成果を、入試の形式で測れる。 夏に基礎固めをした直後の9月は、その成果が最も見えやすいタイミングです。ここで1年分を解くと、「基礎はできたが時間配分ができていない」「記述で落としている」といった、問題集では見えない課題が形式ごと出てきます。
理由3:修正に使える時間がまだ十分ある。 9月なら本番まで5か月あります。ここで見つかった穴は、まだ戻って埋められます。同じ発見が12月だと、埋める時間がありません。過去問は「実力を測る道具」ではなく「残り期間の使い道を決める道具」——だからこそ、早めに1年分なのです。
逆に言えば、9月に解いて点が取れなくても、まったく問題ありません。9月の1年分は、点数を出すためではなく、これからの5か月の設計図を描くために解きます。
【学力帯×志望校レベル別】本格演習をいつ始めるか判定マトリクス
お子さんの直近の模試偏差値を思い浮かべてください。そのうえで、次のマトリクスに当てはめると、本格演習の開始月が決まります。

偏差値50未満:12月からでいい——焦って始めるほうがリスク
意外に思われるかもしれませんが、この学力帯は12月からで構いません。過去問は「基礎ができてから効く」教材です。基礎に穴がある状態で10月に始めても、3〜4割しか取れず、自信を失うだけで得るものが少ない。それより、11月末までは教科書と基礎問題集の完成度を上げるほうが、確実に合格に近づきます。9月の診断1年分で「どの単元の基礎が抜けているか」を洗い出し、そこを埋める勉強に集中してください。
偏差値50〜60:11月開始が標準
基礎はおおむね固まり、応用への橋渡しが課題になる学力帯です。11月から本格演習に入るのが標準的なペース。1周目で弱点を特定し、12月〜冬休みで穴を埋め、1月から時間配分の完成に進む——という流れが無理なく回ります。
偏差値60以上:10月から実戦形式で
上位校を狙う場合、合否を分けるのは知識量よりも問題形式への慣れと時間配分の完成度です。基礎が固まっているなら、10月から時間を計った実戦形式で始めてください。難関私立や公立トップ校は問題の癖が強く、慣れの分だけ点が伸びます。演習量を確保できるのが、この学力帯の特権です。
公立と私立で「始め方」も変わる
もうひとつの軸が志望校の種類です。公立高校は都道府県共通問題が中心で傾向が安定しているため、上記の開始月がそのまま使えます。一方、併願する私立高校は学校ごとに問題の癖が強いため、第一志望と並行させず、冬休みから3年分で形式に慣れるのが効率的です。志望校や併願パターンがまだ固まっていない場合は、先にそちらを決めるほうが過去問計画も立てやすくなります(参考:高校の志望校の決め方)。
開始月が決まったら、次に決めるのは「量」です。ここで多くのご家庭が、「多いほど安心」という逆の間違いをします。実は、過去問は量より”順番”が大事——その理由は、使い方の章でお話しします。
何年分やる?第一志望は3〜5年、併願校は3年が目安
結論はシンプルです。第一志望は3〜5年分、併願校は3年分。これには根拠があります。
過去問は、5教科×1年分で約10時間かかります。解くのに約5時間(1教科50分×5)、丸付けと解き直しに同じくらい。つまり5年分なら約50時間、後述する「3周」を想定すると、直しの時間も含めて優に100時間を超えます。中3の秋冬は、過去問以外にも弱点補強・学校の定期テスト・面接や作文の対策が並行します。「何年分できるか」は、残り時間からの逆算で決まるのです。だからこそ、第一志望3〜5年・併願3年に絞り、1年分ごとの密度を上げるのが現実的な最適解になります。
赤本(過去問集)は、書店に並ぶ夏〜9月のうちに買っておくことをおすすめします。人気校のものは秋以降に品切れることがあるためです。
ただし、ここで大事な注意をひとつ。5年分買っても「解きっぱなし」なら、1年分を3周した子に負けます。次の章が、この記事でいちばん大事な部分です。
過去問は「解く」より「解いた後」。成績が変わる3周の使い方
多くのご家庭が、過去問を「演習教材」だと思っています。解いて、点数を出して、一喜一憂して終わり。しかし、成績が伸びる子の使い方は違います。過去問は演習教材ではなく、診断ツールです。解いた後に「どこが弱いか」を特定し、埋める。この繰り返しが点数を作ります。具体的には、同じ年度を目的の違う3周で回します。

1周目:診断——時間無制限で解き、弱点をリスト化する
1周目は時間を計りません。じっくり考えて、「時間があれば解けた問題」と「時間があっても解けない問題」を仕分けるのが目的です。解けなかった問題は「関数の応用」「歴史の並べ替え」のように単元名で弱点リストに書き出し、次の1〜2週間はそのリストを潰す勉強に充てます。ここで作った弱点リストが、残り期間の勉強計画そのものになります。
2周目:本番形式——時間を計り、時間配分を練習する
弱点を埋めたら、同じ年度を本番と同じ制限時間で解きます。今度の目的は時間配分です。「大問1〜3で何分残すか」「難しい問題をいつ捨てるか」——入試は、解ける問題を時間内に確実に拾う競技です。1周目より点が上がっていれば、弱点補強が効いた証拠でもあります。
3周目:仕上げ——間違えた問題「だけ」をもう一度
3周目は全部を解き直しません。2周目までに×印がついた問題だけを解き、「もう間違えない」状態にして終えます。1周目30分×印だった問題が3周目にすらすら解ける——これが「過去問で成績が上がる」の正体です。
先ほど「量より順番」と言った理由が、これです。同じ50時間を使うなら、5年分を1回ずつ解き流すより、「診断→補強→本番形式→仕上げ」の順番で3年分を回すほうが、確実に点になります。
ただし——やり方が正しくても、途中でつまずくご家庭には共通点があります。その多くは、子どもの能力ではなく、“親の反応”がきっかけです。
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過去問でやりがちな3つのNGと、点数が取れなかった日の親の関わり方
採点後、リビングで沈んでいるお子さんに、何と声をかけますか。この章は、過去問演習で本当に差がつく部分です。まず、よくある3つのNGから。
NG①:入試直前まで「もったいない」と温存する。「実力がついてから解かせたい」という気持ちは分かりますが、過去問は診断ツールです。診断を直前に受けても、治療する時間が残っていません。9月の1年分から始めてください。
NG②:答えを覚えるまで何周も回す。5周・6周と繰り返して答えを暗記しても、初見の問題を解く力にはなりません。3周で「×印ゼロ」にしたら、その年度は卒業。余った時間は弱点単元の類題演習に回すほうが伸びます。
NG③:点数に一喜一憂する。そして、これがいちばん多く、いちばん影響が大きいNGです。
初見の過去問で合格点が取れないのは、当たり前です。合格していった子たちも、最初の過去問は5〜6割からのスタートが珍しくありません。下がった点数は”失敗”ではなく、“合格までの距離が測れた”ということ。距離が分かれば、あとは埋めるだけです。模試の判定に対する考え方と同じで、悪い結果は「現在地の表示」にすぎません(参考:E判定からの逆転)。
だから、採点後の声かけは、点数ではなく単元に向けてください。「なんでこんな点なの」ではなく、「どの大問が惜しかった?」「関数はあと何があれば解けた?」。親が点数に動揺すると、子どもは点数を隠すようになり、診断ツールとしての過去問が機能しなくなります。逆に、親が「弱点が見つかってよかったね」と扱えるご家庭の子は、過去問のたびに強くなっていきます。冒頭の「つまずくご家庭の共通点」とは、これのことです。
なお、無料の体験授業では、直近の過去問や模試の結果を見ながら、お子さん専用の弱点リストを作ります。
9月〜入試本番までの月別過去問カレンダー
最後に、ここまでの内容を逆算スケジュールに落とします。
| 時期 | やること | ポイント |
|---|---|---|
| 9月 | 第一志望の過去問を1年分(診断) | 点数は気にしない。弱点リストを作る。赤本はこの時期までに購入 |
| 10月 | 偏差値60以上は本格演習開始(実戦形式) | それ以外の学力帯は弱点リストの補強を継続 |
| 11月 | 偏差値50〜60は本格演習開始 | 1周目(診断)→補強のサイクルを回す |
| 12月〜冬休み | 偏差値50未満も演習開始/併願私立を3年分開始 | 冬休みは過去問のゴールデンタイム。1日1年分×直しまで |
| 1月 | 第一志望の2周目(本番形式・時間配分) | 私立入試が始まる。新しい年度には手を広げない |
| 2月〜本番 | 3周目(×印の問題だけ)+最終確認 | 起床時間・解く時間帯を本番に合わせる |
計画どおりに進まない週は、必ずあります。計画は、立てた日ではなく、崩れた日にどう立て直すかで決まります。崩れたら「弱点リストの上から3つだけ」に絞って再開してください。全部やり直そうとするのが、いちばん止まります。
よくある質問(FAQ)
高校受験の過去問は何年分やればいいですか?
第一志望は3〜5年分、併願校は3年分が目安です。過去問は5教科×1年分で約10時間(解く+直し)かかるため、秋冬の残り時間から逆算するとこの分量が現実的です。年数を増やすより、1年分ごとに「診断→補強→本番形式→仕上げ」を回すほうが点数につながります。
同じ過去問は繰り返し何周すればいいですか?
3周が目安です。1周目は時間無制限の診断、2周目は時間を計った本番形式、3周目は間違えた問題だけの仕上げ。3周で×印がゼロになったらその年度は卒業です。答えを覚えるまで周回しても初見の問題を解く力にはならないので、余った時間は弱点単元の類題演習に回してください。
過去問の点数が取れず、子どもが落ち込んでいます。どうすればいいですか?
初見の過去問で合格点が取れないのは普通のことで、合格していった子も最初は5〜6割からのスタートが珍しくありません。点数ではなく「どの単元が惜しかったか」に会話を向けてあげてください。低い点数は失敗ではなく、合格までの距離が測れたということです。模試の判定への向き合い方も同じ構造です(参考:E判定からの逆転)。
併願校の過去問はいつから何年分やればいいですか?
冬休みからの3年分が目安です。併願私立は学校ごとに問題の癖があるため、時間配分と出題形式への慣れを優先し、第一志望の演習と混ぜずに冬休みでまとめて仕上げるのが効率的です。併願パターン自体に迷いがある場合は、志望校の決め方から整理すると計画が立てやすくなります。
そのほかの疑問は、よくある質問もあわせてご覧ください。
まとめ|「いつから」の答えは、お子さんの中にある
高校受験の過去問について、この記事の結論をまとめます。
- 9月に1年分——点を取るためではなく、敵を知るための診断。全員共通
- 本格演習の開始月は学力帯で決める——偏差値50未満は12月〜、50〜60は11月、60以上は10月。併願私立は冬休みから
- 量は第一志望3〜5年・併願3年——5教科×1年分≒10時間からの逆算
- 使い方は3周——診断→本番形式→×印だけ。過去問は演習教材ではなく診断ツール
- 点数が悪かった日こそ親の出番——点数ではなく単元に会話を向ける
「9月から」派と「12月から」派、どちらが正しいかではなく、あなたのお子さんの現在地から逆算すること。それが、過去問を合格に変える唯一の方法です。
過去問演習、ひとりで回すのが不安なら
判定マトリクスで開始月は決まっても、「弱点リストの作り方が分からない」「直しが答えの写経になっている」——過去問演習は、家庭だけで回すには意外と難しい勉強法です。
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