執筆・監修:小川 真理子先生(受験アドバイザー/指導歴15年・志望校選び/学習計画/進路相談)
「何から手をつければいいか」を、現実的な学習計画に翻訳するのが役目。
三者面談で「行きたい高校はある?」と聞かれても、お子さんは「まだ分からない」。帰り道、隣を歩く中2・中3のわが子に何と声をかければいいか迷っている——そんな保護者の方に向けて、この記事を書いています。
先に結論をお伝えします。高校の志望校は、「進路イメージ → 譲れない条件3つ → 偏差値」の順番で決めます。この順番を5つのステップに分けて、誰でも実行できる形でご紹介するのが本記事です。
「え、偏差値が最後?」と思われたかもしれません。実は、多くのご家庭は順番が逆です。偏差値から入ると後悔しやすいのには、はっきりした理由があります(詳しくは後述の「決める順番の間違い」でお伝えします)。
そしてもうひとつ。2027年度(令和9年度)入試から、公立高校入試の制度が大きく変わる県があります。「上の子のときはこうだった」という常識が、そのままでは通用しなくなるのです。まずはここからお話しします。
2027年度、公立高校入試が大きく変わる
2027年度(令和9年度)入試、つまりいま中3のお子さんが受験する年から、複数の県で公立高校入試の制度変更が公表されています。代表的な埼玉県と京都府の変更点を見てみましょう。
埼玉県:調査書の簡素化・全校面接・マークシート
埼玉県では、2027年度入試から次のように変わります。
- 調査書が簡素化され、記載内容は9教科の評定+総合的な学習の時間の記録に。部活動などの特別活動や出欠の記録といった項目は記載が廃止されます
- 代わりに、全受検生が「自己評価資料」を提出します(得点化はされません)
- 全校で面接を実施
- 学力検査にマークシート方式を導入
注目すべきは調査書の変化です。これまで「内申書に書いてもらうために」と意識されてきた部活動や委員会活動が、調査書の得点としては見えなくなり、9教科の評定の重みが相対的に増します。日々の授業・提出物・定期テストの積み重ねが、これまで以上に効いてくる制度だと言えます。
京都府:前期・中期の一本化と「2枠制」
京都府では、これまで前期選抜・中期選抜と複数回に分かれていた公立高校入試が、2027年度から2月下旬の1回に一本化されます。そのうえで、各高校が特色を打ち出す「独自枠」と、共通の学力検査で選抜する「共通枠」の2枠制になります。
受験機会が複数回から1回に変わるということは、「前期でチャレンジして、だめなら中期で」という従来の作戦が使えなくなるということです。志望校の決め方そのもの——特に併願プランの組み方——を、上のお子さんのときとは変えなければなりません。
※入試制度は都道府県により異なります。本記事は2026年7月時点の公表情報に基づきます。最新情報は必ずお住まいの都道府県教育委員会の公式発表をご確認ください。
埼玉・京都以外の方にも関係がある理由
「うちの県は変わらないから関係ない」——そう思われた方にこそ、お伝えしたいことがあります。
近年、公立高校入試の制度は全国的に見直しの動きが続いています。調査書の扱い、面接や自己表現の導入、選抜回数の変更、デジタル出願への移行など、どの県でも「数年前の常識」が静かに書き換わっていきます。つまり、埼玉・京都の変更は「たまたまその2県の話」ではなく、「制度は動くもの」という前提で志望校選びをすべき時代になったことの表れです。
だからこそ、お住まいの県の教育委員会の公式発表を親子で確認する習慣を、志望校選びの一部として組み込んでください。塾やママ友経由の「又聞き」ではなく一次情報を確認する——これだけで、制度変更による見落としのリスクは大きく減らせます。
とはいえ、実は志望校選びで失敗する原因の大半は、制度ではありません。もっと手前にある「決める順番」です。次で詳しく見ていきます。
9割の家庭がやりがちな「決める順番」の間違い
まず、ご自身に当てはまるものがないか、チェックしてみてください。
- 志望校の話が、「今の偏差値でいくつの高校に行けるか」から始まっている
- 併願校は、第一志望から偏差値を数えて下に並べただけになっている
- 高校の中身(校風・進路実績・通学時間)は、名前の印象や評判で判断している
ひとつでも当てはまったら、順番が「偏差値起点」になっているサインです。
偏差値から入る決め方には、典型的な失敗パターンがあります。まず、今の偏差値で輪切りにして「行けそうな高校」を選ぶ。すると、選んだ理由が「行けそうだから」しかないため、入学後に校風や進路実績とのミスマッチが起きたとき、通い続ける理由が見つからなくなります。「行きたい高校」ではなく「行けた高校」——この違いが、高校生活3年間の納得感を大きく左右するのです。
もうひとつの問題は、「今の偏差値」で決めてしまうと、中3の秋以降に大きく伸びる分を最初から捨ててしまうことです。受験学年の学力は、入試直前の1月まで動き続けます。夏の時点の偏差値で選択肢を狭めるのは、伸びしろを自分から放棄するのと同じです。
ただ、これは保護者の方が悪いわけではありません。模試の結果表も、学校の資料も、世の中の高校情報も、偏差値順に並んで目に入ってくるのですから、偏差値から考え始めてしまうのはむしろ自然なことです。責める話ではなく、「順番を入れ替えるだけで結果が変わる」という話です。
では、正しい順番とはどんなものか。次の5ステップにまとめました。
高校の志望校の決め方【5ステップ】
志望校選びの全体像は、この図の通りです。ポイントは中身より「順番」——進路イメージが先、偏差値は最後です。

ステップ①:進路イメージから逆算する
最初に考えるのは「どの高校か」ではなく、「高校を卒業したあと、どんな進路がありそうか」です。大学進学を考えるのか、専門分野に早く進みたいのか、まだ白紙なのか。ここは曖昧で構いません。「たぶん大学には行きたい」「ものづくりが好き」程度のざっくりしたイメージで十分です。
このイメージがあると、普通科か専門学科か、進学実績をどの程度重視するか、といった高校選びの「軸」が自然に決まります。逆にここを飛ばすと、あとのステップすべてが「なんとなく」になります。
ステップ②:親子で「譲れない条件」を3つ決める
次に、通学時間・校風・部活動・進学実績・学校行事・制服……といった条件の中から、親子で「これだけは譲れない」ものを3つだけ選びます。
3つに絞るのがコツです。条件を10個も並べると全部を満たす高校は存在せず、逆に条件がないと偏差値だけが基準に戻ってしまいます。「片道60分以内」「行事や部活が活発」「大学進学者が多い」のように、親の条件とお子さんの条件を出し合って、すり合わせて3つ。この共同作業自体が、後々の親子の合意形成の土台になります。
ステップ③:偏差値は「最後に」使う——今の数字ではなく“1月時点”で
ステップ①②で候補が数校に絞れて、はじめて偏差値の出番です。ここで大切なのは、「今の偏差値」ではなく「入試直前(1月時点)にどこまで到達しそうか」で見ることです。
中3の学力は、部活引退後の夏から入試直前まで大きく動きます。今の偏差値で「無理」と切り捨てるのではなく、残り期間×伸びしろで判断する。この見立てには、学力検査の得点だけでなく内申点の動きも関わります。内申点は今からでも上げられる要素が多いので、あわせて確認しておいてください(参考:内申点を上げる方法と評定の仕組み)。
ステップ④:説明会・文化祭で「現地」を確認する
候補校は、必ず現地で見てください。パンフレットやWebサイトでは分からないことが、現地では10分で分かります。見るポイントは次の通りです。
現地確認チェックリスト
– 在校生の表情・雰囲気(すれ違う生徒が楽しそうか。お子さんが「3年間ここに通う自分」を想像できるか)
– 通学経路を実際にたどる(朝の時間帯の混雑・乗り換え。「片道90分」は3年間続くと想像以上に重い)
– 先生への質問(進路指導の体制、補習や講習の有無、欠席時のフォロー)
– お子さん自身の感想(帰り道に「どうだった?」と聞く。ここで出る一言が本音です)
ステップ⑤:第一志望+併願プランを「セット」で決める
最後に、第一志望だけでなく、挑戦校・実力相応校・安全校を組み合わせた併願プラン全体をセットで決めます。第一志望が挑戦的であるほど、「ここなら進学してもいい」と思える併願校の存在が、本番の思い切りを支えます。逆に、併願校を偏差値で機械的に並べただけだと、繰り上がってきたときに「行きたくない高校」しか残らないことになりかねません。併願校にもステップ②の「譲れない条件」を適用するのが、後悔を減らすコツです。
——以上が5ステップです。ただし、このステップは「いつやるか」を間違えると間に合いません。次に、学年別のスケジュールを確認しましょう。
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学年別・時期別スケジュール|いつ何をするか
5ステップを時間軸に置くと、次のようになります。

中2:情報収集と「説明会デビュー」の年
「志望校は中3になってから」と思われがちですが、中2は情報収集のゴールデンタイムです。受験学年ではないぶん、時間にも心にも余裕があります。この時期にステップ①②(進路イメージ・譲れない条件)を親子でゆるく話し始め、秋の文化祭や学校説明会に「お試し」で1〜2校行ってみるのがおすすめです。
中2のうちに現地を見ておくと、中3で候補を絞るときの「ものさし」ができます。また、受験勉強そのものも、始める時期が早いほど選択肢は広がります(参考:高校受験の勉強はいつから始めるべきか)。
中3:夏に絞り込み、秋に現地確認、11〜12月に最終決定
中3のスケジュールは、後ろから逆算すると分かりやすくなります。
- 夏(7〜8月):候補校を3〜5校に絞り込む。部活引退後、勉強時間が増えるタイミングで「どこを目指すか」が定まっていると、夏以降の伸びが変わります
- 秋(9〜10月):文化祭・説明会シーズン。絞った候補校を現地確認(ステップ④)。過去問に触れ始めるのもこの時期です(参考:高校受験の過去問はいつから解くべきか)
- 11〜12月:学校の三者面談で最終決定。ここまでにステップ⑤(併願プラン)まで固めておくと、面談が「確認の場」になり、慌てて決めることがなくなります
つまり、第一志望の目安は中3の夏まで、最終決定は12月の三者面談まで。ここから逆算すると、中2の情報収集がいかに効いてくるかが分かります。
ここまで読んで、「スケジュールは分かった。でも、うちの子はそもそも考えようとしない」と感じた方もいらっしゃると思います。実はそれ、やる気の問題ではないことが多いのです。
子どもが「志望校を決められない」ときの親の関わり方
中学生が志望校を「決められない」最大の理由は、判断材料と経験が足りないことです。行ったことのない場所を、聞いたことのある名前だけで選べと言われても、大人でも困ります。「真剣に考えなさい」と迫るほど黙ってしまうのは、反抗ではなく、答えを持っていないからです。
本音を引き出す3つの質問
「どの高校がいいの?」という直球の質問は、答えを持たない子には尋問になります。代わりに、答えやすい質問から本音を引き出してください。
- 「高校でやりたいこと・続けたいことある? 逆に、もうやりたくないことは?」——学校名ではなく「生活の中身」を聞く。部活でも行事でも「絶対に坊主は嫌」でも、立派な判断材料です
- 「今の生活で、変えたくないものは何?」——友達関係、部活、朝の起床時間。「変えたくないもの」は、そのまま譲れない条件(ステップ②)の材料になります
- 「見に行くとしたら、どこか気になる高校ある?」——「決めなさい」ではなく「見に行こう」。決断ではなく行動に誘うと、子どもは動きやすくなります
成績が届かないとき、「下げる」前に確認すること
模試でE判定が出た、今の偏差値では届かない——そんなとき、すぐに志望校を下げる必要はありません。確認すべきは、①その判定は「今の時点」のスナップショットにすぎないこと、②入試本番までにどれだけ伸びしろが残っているかの2点です。判定の正しい読み方と、そこからの巻き返し方は、別の記事で詳しく解説しています(参考:模試のE判定から逆転できるのか)。
指導事例:中3の秋、志望校について何を聞いても「別に」「分かんない」としか答えないお子さんがいました。お母様は「この子は受験を他人事だと思っている」と半ば諦めた様子でした。ところが、担当講師が「決めなくていいから、文化祭だけ見に行こう」と誘って候補校に足を運んだ帰り道、その子がぽつりと「……ここの吹奏楽、続けられるかな」と言ったのです。志望校を考えていなかったのではなく、「部活を続けたい」という譲れない条件を、口に出せずにいただけでした。そこからは条件に合う高校を親子で調べ直し、冬の三者面談では自分の言葉で志望理由を話せるまでになりました。(※個人の事例であり、結果を保証するものではありません)
「決められない子」の多くは、決める気がないのではなく、きっかけと材料を待っています。親の役目は答えを与えることではなく、質問と現地体験でその材料を揃えることです。
よくある質問(FAQ)
志望校はいつまでに決めればいいですか?
第一志望の目安は中3の夏まで、最終決定は12月の三者面談までです。夏までに目標が定まっていると、夏以降の勉強の集中度が大きく変わるためです。実際、部活引退後に「どこを目指すか」が決まっている子とそうでない子では、同じ勉強時間でも伸びに差が出ます。ただし夏の時点では「仮決め」で構いません。秋の現地確認を経て、12月までに固めれば十分間に合います。
今の偏差値より上の高校を志望してもいいですか?
構いません。判断基準は「今の偏差値」ではなく「入試直前(1月時点)の到達予測」だからです。中3の学力は夏以降に大きく動くため、今の数字で切り捨てると伸びしろを放棄することになります。たとえば夏時点で偏差値が5足りなくても、残り期間の学習計画次第で射程に入るケースは珍しくありません。ただし挑戦する場合は、併願プラン(安全校を含む)をセットで固めておくことが条件です。
子どもが自分で決められません。親が決めていいのでしょうか?
親がひとりで決めるのではなく、親が選択肢を3つ程度に絞って提示し、最終選択を子どもに委ねる形をおすすめします。ゼロから選ばせるのは中学生には難しく、かといって親が決めてしまうと、入学後につまずいたとき「自分で選んだ」という支えがなくなるからです。「この3つなら、どれが気になる? まず見に行ってみよう」——絞るのは親、選ぶのは子。この役割分担が納得感を生みます。
内申点は志望校選びにどのくらい影響しますか?
影響の大きさは都道府県によって大きく異なります。学力検査と内申点の比率、何年生の内申が使われるか、実技4教科の扱いなどが県ごとに違うためです。さらに2027年度入試からは、埼玉県のように調査書の扱い自体が変わる県もあります。まずはお住まいの県の選抜基準(教育委員会の公式発表)を確認し、そのうえで内申点の上げ方を早めに手当てしてください(参考:内申点を上げる方法と評定の仕組み)。
そのほかの疑問は、よくある質問もあわせてご覧ください。
まとめ|順番を守れば、志望校選びは怖くない
高校の志望校の決め方を、あらためて整理します。
- 順番は「進路イメージ → 譲れない条件3つ → 偏差値」。偏差値は最後に、「今の数字」ではなく「1月時点の伸びしろ」で使う
- 現地確認と併願プランまで含めて、はじめて志望校選びは完成する
- スケジュールは中2=情報収集、中3夏=絞り込み、秋=現地確認、11〜12月=最終決定
- 2027年度入試の制度変更をはじめ、制度は動くもの。一次情報(教育委員会の公式発表)の確認を習慣に
- 子どもが決められないのは、やる気ではなく材料不足。質問と現地体験で材料を揃えるのが親の役目
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